乳がんと診断された際、必ず調べるのが「HER2の発現状態」です。HER2の状態によって使える治療薬が大きく異なり、近年の薬剤開発でHER2陽性乳がんは治療選択肢が飛躍的に増えました。このページでは、HER2陽性・低発現・超低発現の違いから、最新治療・治験の情報まで整理します。
HER2とは?陽性・低発現・陰性の違い
HER2(ヒト上皮成長因子受容体2型)は細胞の増殖を促すタンパクで、乳がん細胞の表面に過剰に発現している場合、がんが増殖しやすくなります。
| 分類 | 検査結果の目安 | 全乳がんの割合 |
|---|---|---|
| HER2陽性 | IHC 3+ または IHC 2+/ISH陽性 | 約15〜20% |
| HER2低発現 | IHC 1+ または IHC 2+/ISH陰性 | 約40〜50% |
| HER2超低発現(ultra-low) | IHC 0でも微弱な染色あり | 約10〜15% |
| HER2陰性 | IHC 0(染色なし) | 約20〜25% |
注目すべきは「HER2低発現」という概念が治療上重要になってきた点です。これまで「陰性」として扱われていた患者さんの一部がエンハーツの対象となりました。
HER2陽性乳がんの標準治療
- ハーセプチン(トラスツズマブ)+化学療法:長年の標準治療。術前・術後・転移性でも使用
- パージェタ(ペルツズマブ)+ハーセプチン+化学療法:ダブル抗体療法。術前後の標準レジメン
- カドサイラ(T-DM1):術前療法後に残存病変がある場合の術後補助療法
- エンハーツ(T-DXd):転移性HER2陽性でハーセプチン系治療後の第二選択。DESTINY-Breast03でカドサイラを大幅に上回る効果
- タイケルブ(ラパチニブ)・ネラチニブ:経口の小分子標的薬。脳転移にも一定の効果
HER2低発現乳がんの治療(エンハーツの新適応)
2024年以降、エンハーツ(T-DXd)はHER2低発現乳がんにも日本で承認されています。DESTINY-Breast04試験でHER2低発現の転移性乳がんに対して化学療法と比較しPFS中央値9.9ヶ月 vs 5.1ヶ月という結果を示し、この分野を大きく塗り替えました。
「自分はHER2陰性と言われていた」という方でも、改めてIHCの結果を主治医に確認してみることをお勧めします。低発現(IHC 1+または2+/ISH陰性)であればエンハーツの対象になる可能性があります。
HER2陽性・低発現乳がんの国内治験
エンハーツ自体は承認済みですが、さらなる適応拡大・前倒し投与・他薬との組み合わせを目的とした試験が進行中です。
- NoLEEta試験(リボシクリブ):ホルモン受容体陽性・HER2低発現乳がんに対するCDK4/6阻害剤の試験
- HER2陽性乳がんへのエンハーツ一次治療試験(グローバル進行中)
- HER2超低発現へのエンハーツ適応拡大試験(DESTINY-Breast06)
参加施設を探す場合はがん治験を行っている主要病院一覧をご参照ください。
よくある質問(FAQ)
HER2陽性乳がんは予後が悪いと聞きましたが本当ですか?+
以前はそうでしたが、ハーセプチン登場以降に状況は一変しました。現在HER2陽性乳がんは最も多くの標的治療薬が使える型の一つで、早期発見・適切な治療を受ければ良好な予後が期待できます。「HER2陽性=予後不良」という古い知識はアップデートされています。
エンハーツはHER2陽性の早期乳がんにも使えますか?+
現在の日本での承認は転移・再発乳がんが中心です。早期への適応拡大は試験段階にあります。早期の場合はパージェタ+ハーセプチン+化学療法が標準ですが、術前後の治療として将来的にエンハーツが使われる可能性はあります。
ホルモン受容体陽性かつHER2陽性(ルミナルB/HER2過剰発現型)の場合はどう治療しますか?+
HER2標的治療を優先しつつ、ホルモン療法(アロマターゼ阻害薬等)を組み合わせるアプローチが一般的です。CDK4/6阻害薬との組み合わせ試験も進んでいます。担当医と状況に合わせた組み合わせを相談してください。
HER2低発現と診断された場合、エンハーツはすぐに使えますか?+
転移・再発した乳がんでホルモン療法後の場合、エンハーツが適応となります。ただし使用要件(前治療の内容・全身状態等)が定められていますので、まず担当医に「自分がHER2低発現かどうか・エンハーツの適応になるか」を確認してください。