この試験が目指すもの
乳がんは日本女性が最も多く罹患するがんであり、2023年の推計では年間約10万人が新たに診断されています。 そのうちホルモン受容体陽性(HR+)かつHER2陰性のタイプは乳がん全体の約70%を占め、 術後のホルモン療法(内分泌療法)が治療の中心となります。
中間リスクと判定された患者には、ホルモン療法に加えて化学療法(抗がん剤)も行うことが多くあります。 しかし化学療法には脱毛・嘔気・骨髄抑制・長期的な心毒性など深刻な副作用が伴い、 患者の生活の質(QoL)を大きく損ないます。
近年、CDK4/6阻害薬「リボシクリブ(商品名:キスカリ)」をホルモン療法に上乗せすることで、 術後の再発リスクが有意に低下することがNATALEE試験で示されました。 この成果を踏まえ、NoLEEta試験は「リボシクリブがあれば化学療法は不要になるか?」という 患者にとって切実な問いに答えようとしています。
基本情報
| 試験番号(NCT ID) | NCT07237256 |
|---|---|
| 試験名称 | NoLEEta(No chemotherapy + LEE011 + Endocrine Therapy) |
| フェーズ | フェーズ3(非劣性・ランダム化比較試験) |
| 試験ステータス | 募集中(Recruiting) |
| 対象疾患 | HR+/HER2- 中間リスク早期乳がん(術後) |
| 対象患者 | 18歳以上の女性、術後・化学療法適応と判断された患者 |
| 試験デザイン |
A群(実験群): リボシクリブ+ホルモン療法(化学療法なし) B群(対照群): 化学療法+ホルモン療法+リボシクリブ |
| 主催スポンサー | UNICANCER(フランス) |
| 共同スポンサー | Novartis、SOLTI、GBG、イタリアGIM、カナダCCTG、スイス癌研究所ほか |
| 登録予定人数 | 3,902名 |
| 実施施設数 | 70施設以上(フランス・スペイン・ドイツ・イタリア・カナダ・スイスほか) |
| 試験開始日 | 2025年12月18日 |
| 主要評価完了予定 | 2033年11月 |
| 最終完了予定 | 2037年12月 |
試験デザインの革新性 — 脱エスカレーションとは
従来の臨床試験は「新薬を追加することで治療を強化する」エスカレーション型が主流でした。 NoLEEta試験はその逆の発想、脱エスカレーション(de-escalation)です。 「本当に全員に化学療法が必要か?」を問い直す試みであり、 がん治療の"引き算"を科学的に検証する世界標準レベルの非劣性試験です。
リボシクリブ(LEE011)の役割
リボシクリブはNovartisが開発したCDK4/6阻害薬です。CDK4/6はがん細胞の増殖サイクルを制御するタンパク質で、 これを阻害することで腫瘍の増殖を抑えます。 NATALEE試験(2023年)ではリボシクリブをホルモン療法に3年間追加することで、 中間・高リスク乳がんの再発リスクを有意に低下させることが示されました。
NoLEEta試験の仮説は「リボシクリブがあれば、化学療法が本来果たしていた役割を補完できる」というものです。 もしこれが証明されれば、化学療法の厳しい副作用から多くの患者を守ることができます。
対象となる患者さん
参加できる可能性がある方
- 18歳以上の女性
- HR+(ER陽性率10%以上)かつHER2陰性の浸潤性乳がん
- 術後に中間リスクと判定(pT2N0 G3、pT2N0 G2でKi67≥20%、またはpT0-2N1、pT3-4N0)
- 担当医が化学療法適応と判断した
- 手術で陰性断端が確認されている(術後12週以内)
- ECOG PS 0〜1(日常生活がほぼ自立)
参加できない可能性がある方
- 術前化学療法(ネオアジュバント)を受けた方
- 過去にCDK4/6阻害薬を使用した方
- 遠隔転移のある方(ステージ4)
- 炎症性乳がん、または乳がんの再発
- 2年以内に他のがんの治療を受けた方
- QT延長症候群または心疾患のある方
評価指標の詳細
主要評価指標
| 侵襲性乳がん無再発生存期間(iBCFS) | ランダム化から、同側乳がん再発・局所再発・遠隔再発・死亡・対側浸潤性乳がん発生までの期間(最大12年間追跡) |
|---|
副次評価指標
| 侵襲性疾患無病生存期間(iDFS) | 二次原発がんも含む広い定義(12年間) |
|---|---|
| 遠隔疾患無病生存期間(DDFS) | 遠隔転移・死亡・二次がんまでの期間(12年間) |
| 全生存期間(OS) | あらゆる原因による死亡まで(12年間) |
| 有害事象(Grade 2以上) | 試験終了まで最長8.5年間 |
| QoL(QLQ-C30、QLQ-BR42) | ベースライン・3・6・12・24・36・60・102か月後 |
なぜ今この試験が重要なのか
① 乳がん罹患者数の多さ
日本では乳がんは女性のがん罹患数1位であり、毎年約10万人が診断されます。 HR+/HER2-タイプはその約70%。化学療法省略が可能になれば、 年間数万人規模の患者が副作用から解放される可能性があります。
② CDK4/6阻害薬のエビデンス蓄積
パルボシクリブ・アベマシクリブ・リボシクリブの3剤が転移性乳がんで標準治療化されており、 術後の早期乳がんへの適応拡大も進んでいます。 NoLEEta試験は「これらの薬剤が化学療法の代わりになれるか」という次のステップを検証します。
③ 国際コンソーシアムが支える信頼性
フランスのUNICANCERを筆頭に、スペインSOLTI・ドイツGBG・イタリアGIM・ カナダCCTGなど世界トップレベルの臨床試験グループが参加する多国間試験であり、 結果の国際的な信頼性と汎用性が担保されています。