この試験が目指すもの

胃がんは日本において男性がん死亡数第3位、女性第4位の主要ながんです。 日本は世界で最も胃がん罹患率が高い国のひとつであり、 毎年約10万人が新たに診断されます。 その中で、HER2(ヒト上皮成長因子受容体2型)が過剰発現している「HER2陽性」タイプは 胃がん全体の約15〜20%を占め、進行が速く予後不良とされています。

現在の標準治療は「化学療法+トラスツズマブ(ハーセプチン)+ペムブロリズマブ」ですが、 中央無増悪生存期間は依然として10か月前後にとどまります。 Destiny-Gastric05試験は、日本発の抗体薬物複合体(ADC) エンハーツ(T-DXd:トラスツズマブ デルクステカン)を 一次治療の中心に置くことで、この壁を突破できるかを検証します。

基本情報

試験番号(NCT ID)NCT06731478
試験名称Destiny-Gastric05
フェーズフェーズ3(ランダム化比較試験)
試験ステータス募集中(Recruiting)
対象疾患切除不能・局所進行または転移性HER2陽性(IHC 3+またはIHC 2+/ISH+)胃・胃食道接合部(GEJ)腺がん
対象患者18歳以上、一次治療未施行、PD-L1 CPS ≥1(メインコホート)
試験デザイン 実験群: T-DXd + フルオロピリミジン系薬(5-FU/カペシタビン)+ ペムブロリズマブ
対照群: トラスツズマブ + フルオロピリミジン系薬 + ペムブロリズマブ(標準治療)
※探索的コホート(PD-L1 CPS<1):T-DXd+化学療法 vs トラスツズマブ+化学療法
スポンサー第一三共株式会社
共同スポンサーMerck Sharp & Dohme(MSD)
登録予定人数726名
実施施設数250施設(日本17施設を含む)
試験開始日2025年2月27日
主要評価完了予定2028年6月
最終完了予定2030年2月

エンハーツ(T-DXd)とは何か

トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ)は、 第一三共とAstraZenecaが共同開発した次世代ADC(抗体薬物複合体)です。 HER2を標的とする抗体(トラスツズマブ)に、 強力なDNA傷害性薬剤(デルクステカン、DXd)を 1つの抗体に対して約8分子結合させた「高DAR型ADC」です。

エンハーツの最大の特徴は「バイスタンダー効果」です。 HER2陽性細胞だけでなく、周囲のHER2低発現細胞にも薬剤が拡散して攻撃するため、 HER2発現が不均一ながんに対しても高い効果を発揮します。 HER2陽性乳がん・肺がんですでに日本を含む世界で承認されており、 胃がんへの一次治療適応拡大が期待されています。

💡 Destiny-Gastric01・02・03との違い:過去のDestiny-Gastric試験はすべて「2次治療以降」の患者を対象としていました。Destiny-Gastric05は初めて「1次治療(未治療)」を対象とした試験であり、胃がん治療の最前線にエンハーツを持ち込む試みです。

対象となる患者さん

参加できる可能性がある方

  • 18歳以上の男女
  • 切除不能・局所進行または転移性の胃・GEJ腺がんと診断
  • HER2陽性(IHC 3+、またはIHC 2++ISH陽性)と中央判定
  • PD-L1 CPS ≥1(メインコホート)
  • 一次全身療法を受けていない
  • 測定可能病変が1つ以上ある(RECIST v1.1)
  • LVEF ≥50%

参加できない可能性がある方

  • 過去にHER2標的治療(ADCを含む)を受けた方
  • 上部消化管の完全性が障害されている方(重篤クローン病など)
  • DPD酵素欠損症のある方(地域の慣例に従う)
  • 過去6か月以内に心筋梗塞または症状のある心不全(NYHA II〜IV)がある方
  • 間質性肺炎(ILD)の既往または現在のILD
  • QTcF延長(女性>470ms、男性>450ms)
⚠️ 適格基準は要約です。参加の可否は必ず担当医にご確認ください。

評価指標の詳細

主要評価指標

無増悪生存期間(PFS)ランダム化から画像診断による病勢進行(BICR、RECIST v1.1)または死亡までの時間(最大59か月)

副次評価指標

全生存期間(OS)ランダム化から死亡までの時間(最大59か月)
奏効率(ORR)BICR評価
奏効持続期間(DoR)初回奏効から進行または死亡まで
安全性・忍容性有害事象、間質性肺炎発生率

なぜ今この試験が重要なのか

① 日本が世界に先駆けて経験を蓄積できる

エンハーツは第一三共(東京)が開発した「日本発のADC」です。 Destiny-Gastric05には17の日本施設が参加しており、 日本の医師・患者が世界最前線の臨床データ生成に直接貢献できます。 承認後は日本での保険適用が最も早くなることも期待されます。

② 胃がんは日本人の主要死因

日本のHER2陽性胃がん患者は年間約1.5〜2万人と推定されます。 現行の標準治療(ToGA + KEYNOTE-811レジメン)では 中央生存期間が20か月前後とされますが、これを大幅に延長できれば 多くの患者に直接恩恵が及びます。

③ ADC時代の一次治療への挑戦

エンハーツは乳がん・肺がんで一次〜二次治療に参入しており、 胃がんでも「一次治療から最強のADCを使う」アプローチが 正面から問われる初めての試験です。 結果次第では消化器がん治療全体を変える可能性があります。

よくある疑問

エンハーツは日本ですでに使えますか?+
HER2陽性の乳がん(一次〜三次)、非小細胞肺がん(HER2変異)、結腸・直腸がん(HER2陽性)については日本で承認・保険適用されています。HER2陽性胃がんへの一次治療適応はこの試験で検証中であり、現時点では承認されていません。
間質性肺炎(ILD)とはどんなリスクですか?+
エンハーツの最も重要な副作用のひとつです。薬剤性ILDの頻度は約15〜20%と報告されており、重篤例(グレード3以上)は約3〜5%です。定期的な胸部CT・症状モニタリングが行われ、ILDが疑われた場合は即座に投与を中止します。この試験でも安全性委員会による定期評価が設けられています。
参加するにはどうすればよいですか?+
HER2陽性の進行胃がんと診断された場合、担当の消化器がん専門医または日本の参加施設(国立がん研究センター、愛知県がんセンター等)の臨床試験部門にご相談ください。HER2陽性・PD-L1 CPS ≥1の中央検査結果が必要です。
結果はいつわかりますか?+
主要評価の完了予定は2028年6月で、最終完了は2030年2月の予定です。2025年2月に開始したばかりの試験ですが、726名という規模から中間解析の結果が早期に公表される可能性があります。
⚠️ 本記事はClinicalTrials.govの公開情報をもとに作成した情報提供目的のコンテンツです。医療アドバイスではありません。治験への参加や治療法の変更は必ず専門の医師にご相談ください。