この試験が目指すもの
肺がんは日本のがん死亡数第1位(男女合計で年間約7.5万人)であり、 非小細胞肺がん(NSCLC)はその約85%を占めます。 PD-L1が高発現(TPS ≥50%)するNSCLCに対しては、 2017年以降「ペムブロリズマブ(キイトルーダ)単剤」が世界標準の一次治療となっています。 しかし奏効率は約45%にとどまり、約55%の患者は初回治療で効果が不十分です。
第一三共とAstraZenecaが共同開発した「Dato-DXd (ダトポタマブ デルクステカン)」は、 ほぼすべての固形がん細胞に発現するTROP2を標的とした 新世代ADCです。TROPION-Lung08試験は、 Dato-DXdとペムブロリズマブを組み合わせることで、 ペムブロリズマブ単剤より生存期間を延長できるかを検証します。
基本情報
| 試験番号(NCT ID) | NCT05215340 |
|---|---|
| 試験名称 | TROPION-Lung08 |
| 薬剤名 | Dato-DXd(ダトポタマブ デルクステカン / DS-1062) |
| フェーズ | フェーズ3(ランダム化非盲検比較試験) |
| 試験ステータス | 募集中(Recruiting) |
| 対象疾患 | PD-L1 TPS ≥50%・ドライバー変異なし・切除不能進行または転移性非扁平上皮NSCLC(治療歴なし) |
| 対象患者 | 18歳以上、一次治療未施行、EGFR/ALK/ROS1等のドライバー変異なし |
| 試験デザイン |
実験群: Dato-DXd + ペムブロリズマブ 対照群: ペムブロリズマブ単剤(現行標準治療) |
| スポンサー | 第一三共株式会社 |
| 共同スポンサー | AstraZeneca、Merck Sharp & Dohme(MSD) |
| 登録予定人数 | 740名 |
| 実施施設数 | 243施設(日本27施設を含む) |
| 試験開始日 | 2022年3月4日 |
| 主要評価完了予定 | 2028年2月 |
| 最終完了予定 | 2028年4月 |
Dato-DXdとは — TROP2を狙う第二のエンハーツ
Dato-DXdは、エンハーツ(T-DXd)と同様に第一三共の独自技術によるADCです。 標的となるTROP2(栄養膜細胞表面抗原2)は、 肺がん・乳がん・子宮頸がん・膀胱がんなど多くの固形がんに高発現しており、 正常組織への発現は少ないため「理想的ながん標的」とされています。
TROP2抗体にDXd(トポイソメラーゼI阻害薬)を8分子結合させた高DAR型ADCで、 がん細胞内で切断されてDXdが放出されます。 既に乳がん・非扁平上皮NSCLC(二次治療)での有効性が示されており、 一次治療への展開がTROPION-Lung08の目的です。
対象となる患者さん
参加できる可能性がある方
- 18歳以上の男女
- 非扁平上皮NSCLCと病理診断されている
- PD-L1 TPS ≥50%(検査結果が必要)
- EGFR変異・ALK/ROS1融合などのドライバー変異なし
- 切除不能の進行または転移性疾患
- 全身療法の治療歴なし(補助化学療法終了後12か月以上なら可)
- 測定可能病変あり(RECIST v1.1)
参加できない可能性がある方
- EGFR変異・ALK融合など標的治療の適応がある方
- 扁平上皮がんの方
- ステロイドを必要とする症状のある脳転移がある方
- 間質性肺炎(ILD)の既往がある方
- 過去に免疫チェックポイント阻害薬を受けた方
- 重篤な自己免疫疾患の活動期にある方
評価指標の詳細
主要評価指標(デュアル主要エンドポイント)
| 無増悪生存期間(PFS) | ランダム化から画像診断による病勢進行(BICR評価)または死亡までの時間 |
|---|---|
| 全生存期間(OS) | ランダム化から死亡までの時間 |
| ※ | PFSとOSのどちらかで統計的有意差が確認されれば主要評価達成とみなす「デュアル主要エンドポイント」設計 |
副次評価指標
| 奏効率(ORR) | BICR評価 |
|---|---|
| 奏効持続期間(DoR) | 初回奏効から進行または死亡まで |
| 病勢コントロール率(DCR) | 完全奏効+部分奏効+安定の割合 |
| 安全性・忍容性 | 有害事象(間質性肺炎・口内炎等) |
| 患者報告アウトカム(QoL) | EORTC QLQ-C30・QLQ-LC29 |
なぜ今この試験が重要なのか
① 肺がん日本人患者への直接の機会
27施設という日本の参加規模は、同種の国際試験の中でも最大級です。 青森・柏・横浜・新潟・松山・仙台・札幌など全国に分散しており、 地方の患者でも参加できる可能性があります。 試験参加者は最新の治療を無償で受けられます。
② ペムブロ単剤が効かない患者の救済
PD-L1高発現でも約55%の患者は最初からペムブロリズマブに反応しません。 Dato-DXdの「がん細胞への直接的な細胞毒性」が 「免疫チェックポイント阻害の効果増強」と相補的に働くことが期待されており、 特に免疫療法単独では効果が出にくい患者に恩恵をもたらす可能性があります。
③ 「化学療法不要」の一次治療という革新
現在のPD-L1高発現NSCLCでは、ペムブロリズマブ単剤が標準とはいえ、 効果不十分時は白金製剤ベースの化学療法に移行します。 Dato-DXdを一次治療から組み合わせることで、 化学療法を遅らせながらより長い効果持続を実現できるかが問われています。