この試験が目指すもの

糖尿病性腎臓病(糖尿病性腎症)は、日本における透析導入原因の第1位であり、 2型糖尿病患者の約40%が生涯に何らかの腎臓合併症を発症すると言われています。 腎機能は一度低下すると回復が難しく、現行の治療(SGLT2阻害薬・ARB/ACE阻害薬)は 「進行を遅らせる」ものであって「腎臓を再生させる」ものではありません。

ProKidneyが開発するREACT(Renal Autologous Cell Therapy/rilparencel)は、 この常識を覆す可能性を持つ革新的な細胞治療です。 患者自身の腎臓から採取した細胞を体外で培養・濃縮し、 再び腎臓に直接注射することで、腎臓の修復・再生メカニズムを活性化させようとします。

REGEN-006試験は、このREACTの有効性と安全性を証明するための ピボタル(FDA承認申請用)フェーズ3試験です。 2022年に開始し、世界95施設で685名の登録を目指しています。

基本情報

試験番号(NCT ID)NCT05099770
試験名称PROACT(REGEN-006)
薬剤名REACT / rilparencel(腎臓自家細胞療法)
フェーズフェーズ3(ランダム化比較試験)
試験ステータス募集中(Recruiting)
対象疾患2型糖尿病+慢性腎臓病(eGFR 20〜50 mL/min/1.73m²)
対象患者30〜80歳、HbA1c 9.5%以下、血圧管理済みの患者
試験デザイン 実験群(コホート2): 腎生検 → rilparencel注射×2回(12週間隔)
対照群(コホート1): 擬似手術(サム手術)× 2回
スポンサーProKidney(米国)
登録予定人数685名
実施施設数95施設(米国・台湾・メキシコ・英国・プエルトリコほか)
試験開始日2022年1月5日
主要評価完了予定2029年12月

REACTの仕組み — 腎臓を「自分の細胞で」修復する

REACTのプロセスは以下の通りです:

  1. 腎生検:患者の腎臓から小さな組織サンプルを採取
  2. 細胞培養:採取した組織から特定の腎臓細胞(主に尿細管細胞・集合管細胞)を分離・増殖
  3. 製剤化:培養した細胞をゲル状の製剤(Dextran 40含有)に懸濁
  4. 腎臓への注射:画像ガイド下に患者の腎実質へ直接注射
  5. 2回目の注射:約12週後に対側の腎臓にも注射

この「自家細胞」を使う手法の最大の利点は、免疫拒絶のリスクがほぼない点です。 他人の細胞(同種細胞)を使う治療とは異なり、免疫抑制薬の長期服用が不要です。

💡 eGFRとは:糸球体濾過量(Glomerular Filtration Rate)の推算値。腎臓のろ過能力を示す指標で、60以下で慢性腎臓病(CKD)と診断されます。透析が必要になるのはeGFR 15以下が目安です。REGEN-006試験では「eGFRの年間低下速度」を改善できるかが最初の主要評価指標となっています。

対象となる患者さん

参加できる可能性がある方

  • 30〜80歳の男女
  • 2型糖尿病と慢性腎臓病の診断を受けている方
  • HbA1c 9.5%以下(血糖コントロール良好)
  • 収縮期血圧 ≤140 mmHg、拡張期血圧 ≤90 mmHg
  • ACE阻害薬またはARBを最大耐容量で服用中
  • SGLT2阻害薬を服用しているか、服用を検討している方

参加できない可能性がある方

  • 1型糖尿病の方
  • 過去に腎臓移植または臓器移植を受けた方
  • 糖尿病性腎症以外の腎疾患がある方
  • 直近3か月以内に急性腎障害または大手術を受けた方
  • 過去12週以内に心筋梗塞・脳卒中がある方
  • NYHA分類IV度の心不全がある方
  • 過去3年以内に悪性腫瘍の治療を受けた方
  • 抗凝固薬を継続服用中の方
⚠️ 適格基準は要約です。参加の可否は必ず担当医にご確認ください。

評価指標の詳細

主要評価指標(2つ)

① eGFR低下速度(Surrogate Endpoint)135番目の参加者が最初の注射を受けてから約18か月後における、リルパレンセル群とサム群の年間eGFR低下速度の差
② 複合臨床エンドポイント最初の注射から「eGFR 40%以上低下・eGFR 15未満/慢性透析/腎移植・腎死または心血管死」のいずれかが最初に起きるまでの時間(最大94か月追跡)

副次評価指標

eGFR 40%低下までの時間最大94か月
eGFR 15未満または透析・腎移植までの時間最大94か月
全死因死亡最大94か月
腎臓病QoL(KDQOL)Week 52
健康関連QoL(EQ-5D-5L)Week 52

なぜ今この試験が重要なのか

① 糖尿病性腎症は「止められない」現実

SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン・ダパグリフロジンなど)の登場により、 糖尿病性腎症の進行速度を遅らせることは可能になりました。 しかし腎臓の細胞は一度傷つくと再生しないとされており、 現行薬で腎機能を「回復」させることはできません。 世界で年間200万人以上が透析導入となる中、 真の腎再生医療が求められています。

② 自家細胞療法の革新性

これまでの再生医療は骨髄移植・角膜移植など特定の臓器に限られていました。 腎臓は血流・構造の複雑さから「再生が最も難しい臓器」の一つとされてきました。 REACTは腎臓特有の細胞(尿細管細胞・集合管細胞)を標的にした初めての治療アプローチであり、 成功すれば腎疾患治療のパラダイムシフトとなります。

③ 世界規模の大型フェーズ3試験

685名・95施設という規模はこの分野では最大級です。 米国の主要大学病院(NYU、マウントサイナイ、ヴァンダービルト、ミシガン大など)が参加しており、 結果の信頼性は高いと期待されます。 2029年の最終結果が判明すれば、FDA承認申請に直結するデータとなります。

よくある疑問

「サム手術(Sham)」とは何ですか?安全ですか?+
対照群の患者は実際の腎生検・注射は行われず、同じ機器の音や動作を再現した模擬手術を受けます。本物の侵襲がないため安全です。試験のブラインドを保つために採用されています。
腎生検は危険ではないですか?+
腎生検は出血リスクなどを伴う侵襲的処置ですが、適切な管理下では安全性が確立されている手技です。抗凝固薬を服用中の方は除外されます。試験に参加する前に担当医から十分な説明を受けることが重要です。
日本での参加は可能ですか?+
現時点(2026年5月)では日本の施設は登録されていません。主な実施国は米国で、台湾・メキシコ・プエルトリコでも実施されています。今後の情報は担当医または腎臓専門医にお問い合わせください。
SGLT2阻害薬を飲んでいても参加できますか?+
はい。試験プロトコルでは参加者全員にSGLT2阻害薬の服用を「強く推奨」しています。SGLT2阻害薬を追加の背景治療として継続したうえでREACTの上乗せ効果を評価します。
結果はいつわかりますか?+
主要評価完了は2029年12月を予定しています。eGFRの低下速度については早期の中間解析(135番目の参加者が注射を受けてから18か月後)も実施されます。
⚠️ 本記事はClinicalTrials.govの公開情報をもとに作成した情報提供目的のコンテンツです。医療アドバイスではありません。治験への参加や治療法の変更は必ず専門の医師にご相談ください。